真鍮廃材から見る『次の一手』

株式会社美徳(ヨシトク)は私の祖父が創設し、現在は父が社長を務める云わば家族経営の小さな町工場です。

アパレルブランドの金属ボタンや鞄・袋物の金具やネームプレートなど服飾装身具の装飾パーツをOEM製造しています。主に真鍮という金属材を使った真鍮加工を得意としています。真鍮とは5円玉に使用されている金属で、経年変化と呼ばれる表面の色合い・風合いの変化が特徴にあります。神仏具などにも昔から取り入れられる程、人の生活とは馴染みの深い金属です。近年では、暮らしに寄り添い、共に年を重ね、長く愛せる素材として真鍮雑貨小物などが注目されています。

 

さて話は今から5年ほど前に遡ります。

アパレル業界の不振が続き、先の見通しなど全く立たず会社の経営は火の車でした。今ならまだ少しのお金を残して会社を畳むことが出来る。「もう必要とされてはいないのか」そんな考えも皆あったと思います。危機的経営状況の中、出来ることはないか、「まだ何か」「どんなことでもいい」と新しい一歩を模索する日々が続いていました。

 

弊社では加工製造過程において、帯状・形状・面子状・粒状の真鍮廃材が生まれ出ます。

ある日「これが金だったらな・・・」と覗きこんだ真鍮廃材スクラップの山。

覗き込んだ先にあるその廃材たちから今までに見えなかったものを感じたのです。

それは、それまで私が外を見ることに熱心で「当たり前」と「在るもの」の意義を見落としていたばかりに、気が付かずにいたものでした。

不要とされリサイクルを待つだけであった無名のそれら廃材たちの姿にも、真面目に丁寧にものづくりに勤しむ職人の姿勢や正確性を追求する手間との向き合い方、町工場ならではの人と機械との距離・関わり合い方を感じたのです。そこには私が小さい頃から当たり前に感じてきた美徳という会社の誇りと責任。お客様からの信頼を長きに渡り積み上げ磨き続けてきたからこそ宿るものであると自負しています。

 

このプレス加工において、職人が受け継ぎ感覚を自分の技として仕事を務めようと、いかに「コツコツ」を続けられるか。規則的に抜かれている廃材からは、日本人の文化を感じられます。私はこのことを強く伝えたいと思いました。この真鍮廃材にはまだまだ可能性があると。流れのままに衰退していく一方だったこの戦況を変えるべく、真鍮廃材を活かすことで、次の一手として踏み出そうと、そう決めたのです。

 

そこから私と真鍮廃材の長い旅が始まるのでした。

この旅の話はまたどこかで。

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